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机の引き出しの奥に
隠したままのゼムクリップ
ときどきそれを取り出して
眺めて君を思い出す
はじめて目が合ったこと
同じ電車に乗ったこと
こどもみたいな笑い声
一緒に食べたパンのにおい
カーブを描いて重なって
ただの針金は熱を持つ
なにかを挟んで留めるため
なにかを包んで溜めるため
細く長く渦を巻き
密かな想いを縫い止める
紙の束を抱えて
ぼくに渡してくれたこと
返せなかった言葉と
消えてくれない泣き顔と
もう戻れない日々のこと
誰にも知られない場所に
隠したままのゼムクリップ
ときどきそれを取り出して
君のかわりにキスをする
何度も確かめ合ったこと
わざと知らんぷりしたこと
静電気まみれのマフラー
耳を澄ませた雨の音
カーブを描いて重なって
ただの口唇は熱を待つ
だれかを盗んで容れるため
だれかを偲んで溶かすため
酷く醜く渦を巻き
確かな想いを食い止める
眉間に皺を刻んで
ぼくの小指にふれたこと
捧げてくれた恍惚と
消えてなくなるぬくもりと
選んでしまった日々のこと
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