prolog

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楽しそうに笑う君の笑顔。照れながらもありがとうって喜ぶ君の声。全部、全部。記憶に鮮明に刻まれている。もうそれを見れない、聞けないって分かっていて。でもその事実を認めたくないから白いベットで人工呼吸器を付けた君の側にずっといる。僕は君のその笑顔を、声を、守れなかったんだ。 「おはよーっ!」 登校中。いつもの道のり。季節は春。桜の花びらがひらひらと舞い落ちていく。僕を見つけて僕の方に手を振る君。 「…おはよ、」 僕は朝が苦手だ。人並み以上に。だから君にも適当に返してしまう。 「元気ないねー。まぁいつもの事だけど!」 「…酷いなー」 元気出せ出せー、と両手をこちらに向けて念じてる君。僕は元気でたー、と棒読みで返す。いつもの、いつもの朝。横断歩道に差し掛かった。信号が青色になりサラリーマンやランニングをしている人。様々な人が渡っている。さて、僕達も渡ろうかと君の方を見ると君は膝を曲げてしゃがみ、野良猫を撫でていた。野良猫は気持ちよさそうに目を瞑り君の手にスリスリとしている。僕の目線に気付いたからか君が笑って「行こうか」と言った。横断歩道を渡る。信号が点滅しているので急がなければ、と君の柔らかく白い手を握る。 驚いた顔で僕を見上げてきたが気付かないふりをして渡ろうと歩く速度を上げた。それが、いけなかったのだ。運動音痴の君は何も無い横断歩道で転んでしまった。 「…何やってるの、ほら」 「ありがとう」 ため息をつきながら繋いでいた手を持ち上げた。が、次の瞬間。何処かからか女性の悲鳴に似た「危ないっ!」という声が聞こえた。 何だろう?、と辺りを見回すと1台の大型トラックがこちらに向かってくる。僕達に気付いていないのかスピードを緩める気配もない。今僕達が横断歩道を渡りきろうとしても間に合わないだろう。僕は間抜けだから足が動かなかった。君は目を見開き僕と繋いでいた手を振りほどいて、僕を突き飛ばした。その瞬間だけが、スローに見えて、君がトラックにはねられ数メートル吹き飛んだ瞬間をしっかりと見てしまった。頭が、真っ白になる。僕が君の手を握ったから。いや、そもそも僕が君と出会った所から間違えていたのだろう。僕が、僕が、僕が…君を殺してしまったんだ。
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