春色の新生活

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「まずくないよ。ただくじ引き以来、皆イインチョーって呼ぶようになってたからね。先生以外は誰も朝倉なんて呼ばないから私も正直ちょっとびっくりした」 新しい担任は赴任してきたばかりだったこともあり違和感なく私のことを新しい名字で呼んでいた。 「あぁ。40分の1の当たりだからな」 「うん。皆にイインチョーって呼ばれるようになって本当に当たりだったなって思ったよ。皆さ、私のこと何て呼んでいいのかわかんなさそうだったから」 突然新しい名字を呼ぶのもわざとらしい気がするし、かと言って前のまま呼んでも良いものか本人に聞くわけにもいかないし。 きっと逆の立場なら私も気まずい気持ちになってたと思う。 それを大して仲が良いわけでもない金谷くんが打ち破ったのは私自身も驚いたけど。 「そんなの」 「え?」 「名字なんて関係ねぇのにな。岡安だろうが朝倉だろうが、オマエはオマエだろ。その作者の漫画が好きなのも足が遅いのも声が小さいのも何ひとつ変わんねぇ」 金谷くんの言うとおり私は何一つ変わらない。 両親の離婚すらも長い別居の末だったから住むところも変わらない。 「確かに。何も変わらない。色々悩んでたはずなのに体重も減らない」 そう言って笑うと何故か心が軽くなる気がした。 そんな私を見て金谷くんはフンッと、鼻で笑うと先に歩き出してしまった。 「金谷くん、でもね私」 「んー?」     
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