八重桜

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お昼を過ぎてから一仕事終えた父も遅れて病院にやって来た。 手にはまさかの岡女堂のすあまがびっちり詰まったプラスチックの容器。 桜餅以上に春を感じさせるピンクが一面。 思わず私達女三人は苦笑い。 祖母の大好物だということをまだ二人が結婚する前、付き合っていた頃に母から偶然聞いていたのを覚えていたらしい。 お父さんのそういうちょっとヌケた所も好きになったのだろう。 今でも二人はラブラブだ。 三人揃って病院を出て、祖母の家に着いたの少し日が傾きかけた頃。 久し振りに見た祖母の家の八重桜は相変わらず気高く咲いていた。 ベランダからサンダルを履いて外に出る。 八重桜の木の下から上を見上げた。 明日祖母が退院したら、一緒に花を摘んであげよう。 漸く叶った母と祖母の仲直り。 それを朗らかに笑い包むように空は晴天。 大きな濃いピンクの塊が、空の青さとのコントラストでより一層鮮やかに映えていた。 了
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