八重桜

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「今夜は母さんの家に泊まらせてもらうから」 電話を終えたようで母がカーテンを開けて中に入る。 「別になんでも無いんだからもう帰って良いわよ」 「そう言うわけにいかないでしょうっ」 ピシャリと投げ捨てるように母が言う。 「こんな時にしか来ないくせに……」 私にしか聞こえない声で祖母が呟いた。 その言い方だと、まるでもっと来て欲しいみたいに聞こえる。 「えっ?おばあちゃんは……」 言い掛けた言葉を祖母が遮る。 「じゃあ、いつ帰るんだい?」 「やあね。そんな今来たばかりなのに、早く帰って欲しいみたいに言って」 買い言葉のように母の怒りが滲み出る。 「こっちにも色々と都合ってもんがあるからね」 先程までの可愛かったおばあちゃんが、鋭く母を睨むように尖った視線を投げた。
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