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「ずっと、母さんの桜餅は美味しいって言ってくれてたのに。よそから頂いたのを食べて、さすが岡女堂の桜餅は美味しいって。ど素人の作るものよりずっとずっと美味しいって……あの子そう言ったのよ?ど素人って意地悪く強調して」
どちらも大人気ないと心で呆れる。
「あの時は言い過ぎたって思ってたわよ、ずっと」
突然会話に入ってきた母。
仕切りのカーテンは窓側しか開けていなかったから戻ってきた事に気付かなかった。
「母さんの桜餅、素人にしては美味しかったわ」
頬を染めながら母が言う。
「あんたが美味しいって言うから、昔はよく作ったわね」
そう言いながら岡女堂の包みを受け取る祖母。
「久し振りに……母さんが作ったの、食べたいわね」
母も私の隣のパイプイスに腰掛けた。
「……あら」
岡女堂の包みを開けた祖母の口からぽつりと漏れる。
安いプラスチックの容器の中には桜餅とすあま。
「母さんはすあまの方が好きだったでしょう」
その言葉に祖母の口元が優しく緩む。
最初にリクエストしたはずの桜餅には触れずに、すあまを一つ取り出すとそのプラスチックの容器をこちらに差し出した。
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