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「ほら、あんた達も食べなさい」
「ありがと」
そう言って母が受け取ると一つ桜餅を掴んで口に運ぶ。
「美味しい。久しぶりに食べたわ、岡女堂の桜餅」
母が目を細めて味わう。
「あんた、その桜餅食べて敏夫さんにも食べさせたいって言ったのよね」
思い出した様にポツリと呟く。
「私の作った、じゃなく岡女堂の桜餅を食べさせたいって言ったのが、悔しかった……」
余程悔しかったのだろう。祖母が思い出してか顔を歪ませ唇を戦慄かせる。
「そんな。昔の事今更言われても……」
困惑して母が顔をしかめた。
「母さん、敏夫さんの事いつまでも反対して、中々家に呼ばせてくれなかったから、食べさせようがなかったんじゃない。敏夫さんも好きなのよ、桜餅が。だから食べさせてあげたいってつい漏れ出た言葉じゃない。それをいつまでも根に持つなんて……」
間に挟まれて私は内心ビクビクして二人の表情を見比べるしか出来ない。
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