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何も話してくれない先輩
日曜の午前の早い時間。
久しぶりに七瀬先輩の家を訪ねた。
七瀬先輩のお母さんが、僕を抱きかかえるように家に上げてくれた。
まず仏壇にお参りした。
先輩の遺影を見た。
涙腺が切れてそのまま畳に突っ伏してしまった。
後はいつもと同じ・・・声をあげて泣いた・・・ずっと泣いた・・・
お母さんは、僕の背中に顔を埋めて一緒に泣いてくれた。
「七瀬!」
お母さんの叫び。
「何してるの。健ちゃんが来たよ。早く会ってあげて!健ちゃんを助けて!」
お母さんの叫びが、僕の心の奥まで響く。
「何してるの?なぜ来てくれないの!健ちゃん、泣いてるよ!あなたが死んで二年間、ずっと泣き続けてきたのよ。
健ちゃんを可哀相に思わないの?健ちゃんがどうかなってもいいの!
お願いだから会ってあげて。一言だけでも声を聞かせて!」
お母さんが声を限りに叫んだ。
なにもかも希望がなくなった部屋。ぼくたちふたりしかいない。
お母さんの絶望の叫びと、僕の泣き声しか聞こえない。
遺影の七瀬先輩は、黙って笑っていた。
この時、ハッキリと分かった。
恐ろしい現実・・・
遺影の七瀬先輩は笑顔のまま・・・だけど何もしゃべってはくれない。
遺影の七瀬先輩は笑顔のまま・・・だけど僕たちを笑顔にはしてくれない。
僕は、七瀬先輩の遺影を前に泣き続けるだけ・・・
霊なんて・・・霊なんて・・・本当にいないんだ。
七瀬先輩が冷たい湖の中で命の鼓動を止めた時・・・
七瀬先輩は僕の前から完全にいなくなった・・・
もう二度と会うことも、話をすることもできない。
僕には・・・僕には・・・もう大切な人はいないんだ。
僕はひとりぼっちだ。
七瀬先輩は違う。
しゃべることも考えることもない。寂しく思うことだってないんだ。
だって先輩は、もうどこにもいないんだから・・・
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