湖に消えた先輩

3/6
前へ
/121ページ
次へ
 校舎も違うから、学校で七瀬先輩の姿に会うこともなかった。  七瀬先輩からの電話もメールもなかった。こんなこと、初めてだった。  正直、寂しかった。でも忙しいんだと思って、こちらから連絡するのは我慢していた。 それでもやっぱり寂しかった。  合宿の前日の水曜日、七瀬先輩にメールを送った。  <一緒じゃないと悲しいです。また怒って下さい!逃げませんから!でも叩くのはイヤです!行ってらっしゃい>  返事はなかった。  進学コースの学習合宿は木曜から日曜までの三泊四日。  そして宿泊先に着いたばかりの木曜の午後。  七瀬先輩は、近くの湖で、伝統行事だからと何十年も続いてきた(この年で終わりになった)全員参加のボート走に参加した。  ひとりずつ一艘のボートに乗り、自分でオールを漕いで、一斉に西岸から南岸に向かう。  これが受験と、何の関係があるんだろう。  引率の先生だって説明できない。  こんなこと、やる必要なかったんだ。  この日は風が強く、湖面が大きく渦を描いていた。  「ボート走は中止になる」  そんな声も出ていた。     
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加