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「俺、これから先どうしてったら…」
「まず自分に自信持ちなさい。あんた、仕事は大丈夫。立派にやってると思う。これまでの新人に比べたらとんでもなく仕事出来てる。課長は2年も誰ともつき合わなかったのよ。それがあんたを選んだ。だからそれも自信持つの。そしたら自然と変わっていけるわよ」
漠然とし過ぎていてよく分からない。
「例えばね、課長に片思いしてる子って結構いるの。他の部署の女の子たち。ウチのオフィスじゃ私だけだったからそれはもう安心ね。だからそういう子が廊下なんかでアタックしてるのを見かけても顔色一つ変えずにその横を通り過ぎる。それくらいのこと、出来なくっちゃだめ」
「そんなこと……」
「難しい? これから暑くなってくるわ。みんな肌を露出してくる。毎年のことだから私は知ってるけど、みんなそうやって課長のそばをただうろうろし始めるのよ。バカみたいだけどね。そんなの見て、いちいちうろたえてちゃダメってこと。どうせ課長は気づきもしないんだし」
思ったより状況は厳しい。耐えられるんだろうか、そんなこと。蓮の言っていた言葉を思い出す。
――人前では他人でいなくちゃならない
――辛いぞ、これから
「おれ……分からない、頑張れるかなんて分からない……」
「ばかねぇ」
三途川の声が優しくなった。
「そうね、これだからあんたのこと、放っておけないんだわ。私だって余計なことしちゃって。私、あんたが可愛いわ。昔弟がいたのよ、あんたみたいな天然の。天然過ぎて東南アジアに行っちゃってね、それっきり。だからあんた見てると弟みたい。とにかく強くなんなさい。それから私が知ってるってこと、課長に言っちゃだめよ。いい? 絶対にダメだからね」
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