2.新しい日々

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   頭の中で三途川の言葉が渦を巻いた。 『課長と暮らしてるでしょ』 『課長と暮らしてるでしょ』 『課長と……』 「ジェローム、しっかりなさい!」  腕を掴まれた。ふっと三途川の顔に焦点が合った。 「まったく。あんたってホントに隠すって事出来ないのね。そんなんじゃこの先上手くやっていけないわよ。どうする気なの? こうやってちょっとつつかれるたびにそんな反応してたら認めちゃうようなもんなのよ」 「え、じゃ三途川さんは知らなかっ……?」  自分が墓穴を掘ったのか、そう焦った。 「いいえ、私は確信してたわよ。あんたに最後に会ったのは具合悪くて帰った日。課長が送ってったのよね。あの次の日課長の様子が一日おかしかったわ。そしてあんた。ずい分変わったわね。さらにあんたの香り。課長とおんなじ」 (あの時変な顔をしたのはそのせい?) 「それにね、私課長が好きだったのよ」  サパッと言うから言葉が何も出ない。 「だから普通の人よりそういうの分かるの。あんた、今のままじゃ自分から全部バラしちゃうわよ」 何を言っていいか分からない。頭の中が整理できない。否定さえしなかった。 「ね、落ち着きなさい。私あんたを苛めてるわけじゃないんだから」 「だって……三途川さん課長を好きなんですよね?」 「好きだったわよ。しょうがないじゃない、失恋しちゃったもんは。まさかねぇ、あんたが恋敵になるだなんて思ってもいなかったわよ。でも気にしなくっていいわ。失恋なんて初めてじゃないし」  
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