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「茜ちゃんってお風呂好きだよね。俺たちに似たんだ、きっと」
夫が嬉しそうに言った。
温泉好きがきっかけで結婚したわたしたちは、初めての子育てに奮闘中だ。
「あったかいからずっとご機嫌でかわいくてさ。もうたまらないよ。ガス暖房にしてよかったな」
「寒かったら泣くでしょ。冬生まれは肌が弱いって言うし」
「保湿してるから皮膚も綺麗になってきたじゃん」
生後一ヶ月までの赤ちゃんの入浴を沐浴と呼ぶ。新生児は抵抗力が弱いため、大人と一緒のお風呂には入れない。
生まれて二ヶ月を過ぎた娘は乳児湿疹も落ち着き、もう大人と同じ浴槽に浸かってもいいのだけれど、わたしたちはまだベビーバスでの沐浴スタイルを続けている。
「また大きくなっててすごいよな。一週間ぶりに見ると、別人みたいに育ってる」
「別人?」
「うん、重い。やばい。手首が痛いよ、腱鞘炎かも」
夫が手首を振る。
「大丈夫?」
「ああ、なんとか。右手使えなくなるとやばいな。寝かしつけがんばって」
「……うん」
湯上りのミルクを飲み終えた娘はふっくらまるい顔をかすかに動かし、小さくうなった。口元からよだれ混じりのミルクがあふれてくる。わたしは黙ってそれをぬぐう。
「じゃ、おやすみ。茜ちゃん、おやすみー……」
自ら戦力外宣言した夫が撤退し、娘とわたしは残された。
わたしだって身体中が痛い。肩も腰も限界だ。
でも子育てを休めるわけじゃない。寝かしつけないと自分も眠れないし、傷みをごまかしてどうにかやっている。
週末の沐浴だけでなく、もっとしてよ、と言いたい気持ちは常にある。
あなたが欲しがった子どもなのに。
お世話をするのは、圧倒的にわたし。
娘を抱っこして部屋を歩き回り、寝ついたと思ってベビーベッドに置いた途端に目を覚ます、通称「背中スイッチ」との格闘を繰り返す。くたくたになった頃、ようやく娘は眠りについてくれた。
こんな生活、いつまで続くんだろう。
夜九時過ぎ。
一日が終わる。
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