2

2/4
前へ
/10ページ
次へ
 真夜中に授乳し、その後、一瞬で朝が来た。  出勤前の夫が寝室から出てきて、日の光に照らされた娘の顔をのぞき込む。 「あー、笑ってる」  何の夢を見ているのやら、ひくひくと全身を震わせて娘が笑う。  歯のない口がわずかに開き、よだれに濡れた唇が光っている。おでこから耳まで覆う産毛は何やら動物の仔めいている。 「茜ちゃん、今日もいい天気だよー」 「ちょっと、起こさないでよ」 「わかってるって。新生児微笑だろうけど、かわいいよなぁ」 「そんなにかわいい?」  つぶやいたわたしの声は自分で思うより尖っていたらしい。夫が眉根を寄せた。 「みーちゃん、疲れてるんだね。マッサージでも行ったら?」 「そんな暇あるわけないじゃない」 「ゆっくり湯船に浸かるとか」 「無理。シャワー浴びるのすらタイミング見計らってるんだから」  夫はわかってない。全然わかってない。  乳児を置いて、いつどうやってマッサージに行けるというの。  自分の時間なんてない。娘が寝ているうちに少しでも家事を進めなきゃ回らないし、食事もトイレも急いで済ませ、常に臨戦状態の緊張感。爆弾を家の中に抱えたようなものだ。  家にこの子がやってきてからの二ヶ月半、わたしはリビングのソファで雑魚寝している。  髪をくくり、授乳しやすい服を着たまま。化粧はおろか、ゆっくり入浴する暇もない。 「朝から喧嘩はやめよう。行ってきます」 「……行ってらっしゃい」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加