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 逃げるように夫が出ていき、静寂が訪れる。  今のうちに洗濯と掃除をして……ああ、昨日乾かした洗濯物をまだ片づけていない。その前に朝食を済ませておかなければ。  ため息をつく間もなく始まる一日。  自分が生んだ娘をかわいいと言えないわたしはどこか壊れているのかもしれない。  親になる覚悟も意欲もないまま突入した育児。  昼夜の区別なくおむつ替えと授乳と泣き止ませを繰り返す日々の中、娘と二人きりでいると思うのだ。 『もう目を覚まさなければいいのに』  いつ起きるか、いつ泣き出すか。怖くて怖くて、その瞬間が少しでも先であるよう願う。  もしわたしのせいではなく、悪魔のちょっとしたいたずらで娘が永遠に眠ったままになったら、わたしはきっと悲しむことができる。  そう思う一方で、その考えがどんなにゆがんだものかもわかっている。  せっかく授かった命、この世に生まれ出た存在を、親であるわたしが百パーセント祝福できないなんて。  もちろん娘は必ず起きるし、頻繁に泣く。お腹が空いた、おむつが汚れた、お腹が痛い、さびしい、退屈、ただ泣きたい……他にも泣く理由はいろいろあるのだろう。  おむつはOK、お腹も満ちているはずなのにぐずぐず半泣き状態の娘をあやしているうちに一時間が経った。 「茜、お風呂入ろう」  平日の沐浴は午前中に済ませる。夕方だと忙しいし、わたしの疲れが溜まってきてつらい。  いろいろ試した結果、産院で習った手順とは違う独自のやり方を考えた。  浴室をあらかじめ温め、タオルや新しいおむつ、着替えも持ち込んでおく。塩素除去したお湯はぬるめの三十九度。これで寒い思いをさせず、手早く娘を入浴させられる。  小さくて頼りなく、そのくせ思わぬタイミングで身体を動かす赤ん坊。のぼせやすいから、長湯は禁物。  こっちは汗だくになるから下着姿だ。
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