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夫が用意したぬるめのお湯に浸かる。自然と長い息が漏れる。
大人になって、何でも自分でできるようになった。出産を機に休むまでは仕事だってがんばっていた。
今は育児中という看板を掲げて、いくつもの誘いを断り、夢や遊びをあきらめている。
不幸とは言わないけれど、幸せでしょうと誰かに言われる度、あいまいに笑ってごまかす気持ち。
不自由で、いつも疲れていて、不安や不満、マイナスの感情ばかりで。
裸になってお風呂に入る、そんな単純なことでほっとする。
複雑にこんがらがった自分が少しほどけるひととき。
「そろそろいい?」
扉越しに、娘を抱いた夫のこんもりとしたシルエットが見えた。
「いいよ」
「茜ちゃん入りまーす」
洗い場で娘を受け取り、出しっ放しのシャワーをそっと足に当てる。
軽い。
この子、まだこんなに軽いんだ。
肌と肌を密着させると、わたしとの大きさの差は笑ってしまうほどで。
自分が濡れてもいいやという状態で娘を抱えていると、背中や脇を洗うのもさほど難しくない。
毎回苦労する首元もすっきり洗えた。
「さ、温まろうね。大きいお風呂だよ」
まだ言葉は伝わらない。答えは返ってこない。
湯船に浸かると、腕の中で娘が身を縮める。
ベビーバスとは違う初めての広さに緊張しているのか、全身に力が入っている。
「大丈夫、大丈夫。怖くないよ」
決して離さないから。
わたしがしっかり抱えてるから。
「気持ちいいね」
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