《Small society》

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 プライバシーを詮索する……と言った所で、単に某大型電器店が行なっている、電化製品が安くなる格安ポイント申請をするために応募者が送ってきた申請書を、コンピューターにスキャンしやすくするために手直しするだけの作業じゃないか。基本的に購入した電化製品の保証書のコピーが申請書に貼ってあるだけ。まあ、個人情報と言ったら氏名や住所や電話番号ぐらいはあるか。有名人とかの応募者がいたら、名簿屋にでも売りつけた方が得かも知れないな。そんな知己はいないけれども。  勅使河原は個人情報過保護法化している昨今の趨勢を憂いで、内心、不毛にも静かに毒づいてみる。 「分かりました」  肚裡(とり)の饒舌とは別に淡々と勅使河原は答えると、若い管理長はその様子を覗き、満足そうに頷いた。  印刷工場内の一部のスペースを広げて改造した作業場。その作業場の片隅にパーテーションで区切られた、簡易的なブースの中で勅使河原はこれから行う仕事の内容を説明されていた。今まで経験した事のない派遣社員という就業形態で行う仕事。その内実は一枚の紙切れ、つまり申請書類と一日中黙々かつ延々と向き合い、補正と呼ばれる添付書類の貼り直し作業をすること。この仕事場ではOP(オペレーター)と呼ばれるヒラの派遣社員がそれら実務を行い、SV(スーパーバイザー)と呼ばれている準社員の人間が各々のグループを管理する、という組織図になっている。  OPにSVか。某アトラクションのキャストやゲストやらの呼称じゃあるまいし、横文字だと少しはオシャレに聞こえるという理由からかな。     
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