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大切な君と別れたのは、もう6年も前のこと。
連絡すらとることもなくなったが、ときおりSNSで見かける君はキラキラと光って見える。
葉書を裏返すと、君の側には優しげな男がいて、二人とも良い笑顔で写っていた。
記憶の中の君よりも、もっと素敵な笑顔を浮かべていて
君をそんな顔にさせてあげることは、僕にはできなかったから本当に良かったと思う。
リビングのテーブルに葉書を載せて、足を組む。
「間違っては、なかった。」
ぼんやりと思った言葉は、どうやら僕の口から洩れたようで、
足元にやってきた飼い猫が僕を見上げて、小さくにゃあと鳴いた。
目を瞑ると、まだ見えてくる。
あの素敵な日々が。
大切な君と過ごした日々。
それは、僕の中で宝物になっていて、
落ち込む度、立ち止まりかける度に僕の背中を押してくれていた。
僕が足を組むのをやめると、飼い猫は太ももの上に飛び乗って、
撫でてもいいよと言わんばかりに手に頭を擦り付ける。
僕が撫で始めると、満足そうに目を細めて欠伸を洩らした。
今も、忘れない。
忘れられない。
笑顔を向けてくれていた君が、寂しいと洩らしたあの夜。
僕では役不足だと、実感した夜を。
僕の燃えていた心が、静かな火へと変わった日を。
「大切だからこそ離れる、なんてね。」
そういう選択肢もあってもいいんじゃないか、と思う。
葉書の中の君は白いドレスを着て、僕と一緒にいた頃よりも良い笑顔で。
何かを隠したような笑顔じゃない、心の底からの笑顔。
その笑顔を見ていると、じんわりと、ようやく僕の心が温かくなった気がした。
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