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「お前は、バカじゃないよ」
甘い香りが充満する車内で初めて最後まで至った時に、彼は囁いた。
劣等感に苛まれていた私はその一言で救われたんだ。家に帰れば地獄が待っている私には、救いの声だった。
受験に落ちて、高額な私立高校に通わせてくれる両親の冷たい視線は毎日、針のように突き刺してくる。馬鹿な娘を持ったと嘆きながら、サラリーマンとパートで働く二人のため息が耳元で聞こえて、自分のしでかした最悪の失態を思い知らされた。
アルバイトが禁止の私立高校の目を避けるために、遠い隣町のドラッグストアで
自分の学費の足しになるお金を稼ごうと思ってやってきた場所に、彼は居た。
「人生そんなにうまくいかなくても、平然と生きてる男がここにいるだろ? 大丈夫だよ。楽しく生きよう。俺達は相性は良いんだから。若いんだし、もっと楽しまなくちゃ」
彼の演説は聞いていて格好悪いけれど、声のせいか、それとも開き直りのせいか、なぜかとても魅力的に思えた。
ずっしりとした高級車はどんな激しい揺れも吸収した。うす暗い場所で目を細めて見つめ合う時の触れるかどうかの距離で、キスを待つあの時間が堪らなく好きだった。それからアルバイトの帰りは必ず、この車の中で最高潮を迎えた。事が終わればすぐに彼は家の近くまで送ってくれたは良いけど、いつも家の手前100メートルのところで降ろされた。
ふっくらと柔らかいシートに頭の後ろを埋めながら喘いだ。正直言うと、最初はぜんぶ演技だった。性的な刺激がすぐ快感になることなんてない。だけど、彼の魅力的な声を目を閉じて感じると、やがて快感に火が灯る。荒っぽい扱われ方をされても、次第に苦痛感は消えていく。
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