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もう一度声を聴かせてよ
待ち伏せがいけないことぐらいわかってる。だけど、あなたにも責任はあるから。
こうして、何回もあなたの帰りを待ってしまう。
電話も拒否されて、メールも届かなくなって、残された手段は仕事帰りのあなたを待ち伏せること、だけだった。
田舎町のドラッグストアで働く薬剤師の彼の車が停められている場所に、今日もやって来てしまった。これでもう何日目だろうか。
だんだんと時間間隔もわからなくなってる。今日が、何月何日かも知らない。そんなことわからなくても困らないもの。
閉店は21時。
この町は、夜19時にはほとんどの人が出歩くをやめ、ゴーストタウンのごとく静まり返る。
何年か前までコンビニがあったけれど、利用者が少ないのか3年程度で閉店してしまってからは、昼間やっているスーパーとこの古びたドラッグストアぐらいしか買い物できる店はない。
まだ学生の私は車の免許なんてないから、多少遠くても自転車で出掛けられる範囲は体力と気力次第だ。
毎日、同じ道を走ってくると代り映えしない風景の中で意識がどこかに飛んでいく。家を出て、ここまで来るまでの記憶はない。そんなものだと思う。
だだっ広い駐車場の痛んだコンクリートの割れ目から、逞しく伸びた雑草が何本も並んでいた。
失恋したのにこうして毎晩会いにくる私は、あの雑草と同じぐらい、いや、もしかしたらもっとしぶといぐらいに彼を諦められないでいる。自分でもどうしてここまでこだわっているのかよくわかっていないけど。でも、はっきりと言えることは、彼は狡(ずる)かった。
「俺達、きっとうまくやっていけないと思う」とか、「お前のこと、前みたいに可愛いって思えない」とか、そんな曖昧な言葉しかくれなかった。別れたいならば、もっと単純明快な言葉で伝えてくれたほうが、潔いのに。だから私は、首の皮一枚に繋がれて、彼がいなくなった日常の穴を埋められずにいる。
ぽっかりと開いた穴が、私を駆り立てるのだ。この場所へ、と―――
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