白狼無知で反逆戦線

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まれにではあるが、狼の中に白い毛並みのモノが生まれる事がある。 いわゆる“白狼”の事だ。白き狼は、その毛色の珍しさゆえに、仲間からは忌み嫌われ、 挙句、猟師に希少な獲物として、常に狙われ続けていく。  同族にも嫌われ、狩人達に狙われる存在は、そのほとんどが死に至る。生き残った者は 強さと深い孤独を纏い、あてのない戦いを続け、今日も“居場所”を求めて、 さまよい続ける…  戦いは完全にこちら側に“有利な展開”として進んでいた。“白狼(はくろう)”は ボロボロの戦闘衣と、自身の手、戦闘のために膨れ上がった手に伸び切った3本爪を 見比べた後、周りを進む“異形のモノ達”と変わり果てた市街を突き進んでいく。 「クソッ、この化け物共がぁっ」 ひしゃげたパトカーの中から這い出してきた警官が、 ボロボロの手に構えたM37リボルバーを向けてくる。 時々、現れるのは、彼等のような交番勤務の警官や、首都防衛に配備された 自衛隊員の生き残り… 89式小銃や短銃装備、もしくは機動隊連中の持つ、 自動拳銃にMP5SMGが常な“通常の敵”は怖くない。 「邪魔!」 呟き、発射された9ミリ弾をすべて片爪で叩き落とし、あまった方の爪で警官の全身を 掬うように抱え、まだガラスの割れてない商店に放ってやる。 本来なら、核爆発を防ぐとも言われるチョバムプレートでさえ、簡単に 切断する自身の爪だが、勝敗が決し、敗残兵となった彼等を虐殺するために使いたくはない。 これは白狼が抱く武人としての信念であり、曲げない生き方でもある。 隣に並んだ“カニ頭の同僚”が不思議そうに尋ねた。 「何故?殺さないんだぁ?狼の兄ちゃん?」 「勝敗は決している。これ以上殺しちゃダメだ。そこの奴等もな!」 叫び、爪を広げ、飛びかかる。彼が飛び込んだ先には、同僚達の中でも“下級兵士”に 属する戦闘員達が、逃げ遅れた市民達に対し、組織から支給された専用のレーザー銃を 向けていた。 彼等の近くにあったコンクリート片に爪を刺し、威嚇をしてみせる。怯えたように下がる 戦闘員達の後に残されたのは、こちらを不安げに見つめる女、子供に老人。 半年前までは自分達に対し、蔑みの目、今は哀れみ、懇願、恐怖…全く“人間”ってのは 本当に都合がいい…超むかつく! 「行け!」
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