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薄暗い地下室の中、黒い石の床に青白い魔法陣が浮かぶ。
いくつもの古代文字が明滅する中央部には透明な水晶が浮いている。
魔法陣が大きく光を放つと、その光は全て水晶の中に取り込まれていった。
魔法陣の傍に立つ10代半ばくらいの少女が光の収まった水晶をためらい無く手に取る。
「まぁまぁの出来かな」
自分の魔術の出来に満足し、少女は被っていたフードを下ろす。
暗がりでも分かるクリーム色の波打つ髪は腰まで届くほど長く、ほっそりとした体に身にまとうのは魔術師が着るローブではあるものの、その下に着ているのはレースが特徴的な上等なドレスだった。
「お腹減った」
少女は地下室の隅にあるテーブルの上の大量のスコーンをモグモグと頬張りながら、水晶の管理リストにチェックマークを入れた。
自身の戦闘において、水晶を利用した即効性の魔術は欠かせぬものであり、いざという時に利用可能なものが無いのでは話にならない。だから日々の管理を怠る事は出来ないのである。
「シエルお嬢様!」
地下室の外側から自分を呼ぶ声が聞こえ、シエルと呼ばれた少女は返事を返す。
「ムグッ……ど、どうしたの?」
シエルは口に入れていた スコーンを喉に詰まらせそうになるものの、日々の鍛錬により平静さを装う事が出来た。
「魔術師協会のマーシャル様がいらっしゃってます!」
「すぐに行く」
声を掛けてくるメイドに返事を返し、シエルは地下室を出た。
魔術師協会の魔術師がシエルの祖母を通さずにシエルに話があるのは珍しい事なので、シエルは何となく違和感を感じる。
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