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シエルが屋敷のエントランスに行くと、痩身の男がシエルを待ち構えていた。
「マーシャルさん、御機嫌よう」
シエルは出来るだけ淑女らしく見えるように、スカートの端をつまんで挨拶した。
「シエル様、ご機嫌麗しく……」
マーシャルは恐縮したように頭を下げた。
マーシャルはかなり年上の男性だが、シエルに頭を下げるのはシエルの祖母が彼の上司だからだ。
自分が偉いわけではないシエルは何となく居心地悪く感じる。
「祖母は魔術師学校での講義があるので外出してますよ」
「それは先ほどこの家のメイドに聞きました。申し訳ないですが、シエル様に協力していただきたい事があるんです」
「私に出来る事は限られていると思いますが……」
祖母を頼れないなら自分に協力を頼まざるを得ない、という状況という事は、よほどの事が有ったのだろう。
シエルは少し緊張してきた。
「落ち着いて聞いてください。この屋敷を含む、森全体にかけてある結界が解けてしまっているのです」
「う……嘘……?」
予想以上に事態は深刻なようだった。
「既に魔獣達に侵入されています」
「すぐに行かないと!」
「シエル様、森の南部の呪印を復活させてください。僕は目撃情報が有った魔獣の討伐に向かいます!既に他の魔術師達も討伐に行っておりますが、今の時間は主婦の魔術師達が主力なので数が足りません。助太刀しませんと……」
「おばあちゃんの部屋に呪印が書いてあるノートが有ったはず!探してから結界を再生しに行くわ!」
シエルの祖母は魔術師協会の協会長だ。
偉大な魔術師の彼女はこの国の魔術師の頂点に立つ。
「くれぐれもお気をつけくださいね。シエル様に何か有ったら、私が協会長に殺されてしまいます」
自分の身に何かあったらマーシャルは協会本部の塔から逆さ吊りにされてしまうかもしれない。
恐ろしい想像に、シエルは震え上がった。
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