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祖母のノートのの通りに呪印の文様のメモ岩に刻みこみ、シエルの魔法で活性化させたら結界は再び機能するだろう。
シエルは岩に手をかざし、自分の中に流れる魔力を集中させる。
岩肌にゆっくりと光の文字が浮かび上がる。1文字ではなく、複数浮かぶ。失われた古代文字が光の輪になり、岩にまじないをかけていく。
シエルが光の輪を岩に押し込む様に動かすと、岩は大きく一度光を放ち、最後に古代文字の1字と山羊の絵が組み合わされた光の文様が浮かび上がった。
最後の一つという事もあってか、呪印を刻む際シエルの魔力が容赦なく吸い取られていく。
「……っ!」
岩肌にガリリッと呪印が刻み込まれた。
先ほどまで消えていた結界が蘇り、騒がしかった森の木々が少しずつ沈黙しはじめる。
恐らく魔術は成功した。
大きな魔術を何度も使用したので、シエルはかなりの疲労感を感じ、地面に座りこんだ。
ポケットに突っ込んできたスコーンを口に運ぶ。
一人で食べるおやつは何だか味気ない。
「夜はおばあちゃんと一緒に夕飯食べたいな……」
この日最後の光を投げかける沈みかけの太陽を見ながら、シエルはため息をついた。
(早く帰ろう)
立ち上がり、ドレスについた土を払っていると、やや遠くから何か聞こえてきた。
パーンと破裂する音と、恐ろしい唸り声。
普通の獣の声ではない、背筋が凍りつくような魔獣の声だ。
シエルは青ざめる。
「そんな……この近くにも魔獣が侵入しているの……?」
どうしていいか瞬時に判断出来ず、立ち尽くしていると、人間の声のようなものもうっすらと耳に届く。
人が襲われているのだ。普通の人間ならば、魔獣相手になすすべなく殺されてしまう。
シエルは迷いを捨て、声が聞こえた方向に走り出す。
自分が行くまでにどうか無事でいてほしい。
発砲音を頼りに走る。
この辺りの森は行政から立ち入りが禁止されているはずなのだが、一体誰が入って来たというのか?
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