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何者かが戦う気配はかなり近い。
シエルは周囲を見回す。
黒っぽい何かが見えた瞬間、傍の老木に高速で何かが当たった。
「キャア!」
自分が数センチずれた所に立っていたら、おそらく顔に当たっていた。
頬に風圧を感じるくらい近くを通りすぎのだ。
真っ青になり、何かが飛んできた方向を見ると、長身の男が驚きの表情でシエルを凝視していた。 男の持つ銃の弾が危うく自分を殺しかけたらしい。
「誰だ!? ここで何をしている!」
ハスキーな大声にシエルはビクリとした。
それはこちらのセリフだと返したいシエルだったが、男と対峙するように黒い塊が見え、事態の深刻さに気づいた。
「魔獣!」
黒く巨大な生き物は男に向かって、俊敏に飛び掛かった。
男は反応が遅れ、銃をもつ右腕に噛みつかれる。
「っ!」
男は左手に持っているナイフの様なもので、魔獣の目を切り裂く。
巨大な狼の姿をした魔獣は飛びのき、男との間合いを取る。
目を傷つけられた事で余計に興奮状態になったようだ。
自分のせいなのではとシエルは茫然とするが、腕を抑え痛みに耐える男の姿が亡き父に被って見え、じっとしている事は出来なかった。
気が付くとシエルは男をかばい、魔獣の前に立っていた。
シエルは杖を構え、水晶に手をかざした。
男の息を飲むような音が聞こえる。
「死にたいのか? 俺を置いて逃げた方がいい……」
「私を舐めないでください!」
シエルの声に反応し、魔獣が2人に飛び掛かる。
魔獣の爪がシエルの肌を切り裂くより早く、暗闇に紫のプラズマが飛び散る。
シエルが事前に杖に仕込んでおいた魔術だ。
高圧の電流をあび、魔獣は情けない悲鳴をあげ、地面に崩れ落ちる。
いかに巨大な魔獣といえど、電流による激痛と筋肉の硬直は耐え難いものがあるらしい。
この隙にシエルは魔獣を魔術で出した蔦でグルグル巻きにした。
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