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(これでたぶん、……大丈夫だよね?)
シエルは緊張が解け、今更震え出す。
噛まれた腕を抑えながら、男はシエルに近寄ってくる。
「君が持っている武器は初めて見るな。杖から電流が放出したようだったけど、どういう仕組みなんだ?それと君、縄の扱いに長けてるんだな。あんなに生きてるみたいに動かせる奴見たことない」
男の問いかけにシエルが震えて返事を返せないでいると、男はため息をついて、軍服のような装備 からベルトを引き抜いた。
シエルがぎょっと男をみると、男はベルトを手渡してくる。
「悪いけど、そのベルトで俺の上腕を縛ってくれないか?このままだと出血がやばい」
そうだった、この人の傷を放置してはいけない。
シエルに気をとられなければ噛まれていなかったかもしれないのだ。
「もしよければ治療しましょうか?」
そのまま放置しては、最悪、出血多量死や魔獣の口から入ったであろう雑菌が影響して腕を切り落とさなければならなくなる。
「止血だけでもしてもらうととても助かる」
男は簡易的な治療を想像しただろう。
でもシエルは魔術師だ。
不可能を可能にする。
シエルは男の腕に手をかざし、集中する。
男の腕の上にフワリと浮かび上がった魔法陣は白い光を放ち、痛々しい傷口をどんどんと塞いでいく。
「これは……魔術……?」
男の声が驚きで上ずっていた。
シエルは治癒の魔法を使いながら、急激な眠気に襲われる。
魔力を使い過ぎた時の症状だ。
先程の結界の再構築の際にかなり消費していたのだろう。
(こんな所で眠るわけにはいかない。)
シエルは意識を保とうと唇を強く噛んだ。
男の傷を確認すると、完治まではいかないが、かなり跡が小さくなっている。
もう充分なくらいだろう。
「傷はもう大丈夫だと思います。私は家に帰りま……」
シエルは話しているうちに意識が遠くなる。
男の焦ったような声が聞こえたような気がした。
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