言葉

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 あの頃。  自分に、少しでも夫の思いを受け入れる余裕があって。  夫に、少しでも「頼られている」と言う実感を持たせることができたのなら。  今とは、違う未来があったのだろうか?  夫の息子に言った言葉は、嘘ではなかった。  夫は、「息子」という存在を得ることで、短いかもしれないが、「頼りにされている」という喜びを感じることができたのだ。  それは、自分が与えることができなかった感情(もの)だった。 「では、理事長。確かに我が法人は遺骨の引き取りを行い、供養していますが、それはあくまでもこの法人の施設を利用する人達のためです」  口調を改めた姪に、婦人は苦笑を浮かべた。 「大丈夫よ。真っ当な神経を持っているならば、少なくともうちに預けようとは思わない話し方をしたから」
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