7人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、少なくとも。
自分よりも「優秀」だった元妻が得られなかった「子ども」を、当てつけるように見せ続けていたことなど、言わなかった。
そのことは、彼は知らなくて良い。
知らないことで、彼は婦人のことも、自分の父親のことも、本当に「善良な人間」だと思い続けるだろう。
そうすることで、夫の息子は遺骨を捨てるようなことはしないだろうし、もう二度と自分の前には現れないはずだ。
そこまで考えて、婦人は一口コーヒーを口に含んだ。
苦味が、口内に広がる。
「苦いわね、これ」
誰ともなく呟いたけれど、それに答えてくれる「声」はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!