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「今も、忘れられないわ」
そう言って、婦人は笑った。
「あなたのお父様に言われた言葉は」
その婦人を訪ねたのは、父の訃報を知らせるためだった。
婦人は、父の最初の妻であった人だった。
父の遺骨を持参したのは、直接対面して欲しいと言う思いの他にも、下心はあった。
白い布地に包まれた、小さい壺に入った父の遺骨は、焼いてしまったらほとんど灰になってしまい、こんなサイズの壺でも充分だった。
今、いる場所は、「パレス」と言う名前の高級高齢者住宅の中にある、事務室だった。
けれど、目当ての婦人は、この高級住宅の住人ではない。
ここの経営者ーいや、この高齢者住宅以外にも様々な施設を運営する、社会福祉法人の理事長だった。
「お待たせしました」
待つこと数分。
事務所に入ってきたのは、カーキ色のズボンに、白のトレーナーを着て、介護用のエプロンを来た、五十代ぐらいの婦人だった。
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