言葉

5/16
前へ
/16ページ
次へ
 だけど、彼女は余計なことは一切言わず、ただ父のために手を合わせてくれる。 「一つ……お尋ねして良いですか?」 「あら、何かしら」 「何故、父と離婚されたんですか?」  婦人が目を開けた瞬間に、失礼とは思いつつも尋ねてみたくなったことを聞いてみた。  「お父様から、お聞きしてないの?」 「はい」   父からは、聞いたことはなかった。  ただ母からは、まだ幼い頃聞いたことがあった。 『あなたができたから、私はお父さんと結婚したの』  なぜ、母が幼い自分にそんなことを言ったのか、それは覚えていない。   けれど。その口調は、全然嬉しくなさそうで。  まだ幼かった自分にも、違和感は充分にあった。  ただ、それは長じて行くうちにわかるようにはなっていった。    ようするに、父は母の理想的な夫ではなかったのだ。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加