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「でも、私も今なら思うのよ。もっと彼の気持ちを汲んであげれば良かったなって」
「そうなんですか?」
「そう。あの頃は私も自分の気持ちで精一杯でね。彼の気持ちも、『余計なこと考えて』と思っていたフシもあるの、正直ね」
そう言って、ふふふっともう一度婦人は笑った。
「父は、あなたを悪者にして逃げたんですよ。自分の実力を認めることができなくて、楽な方に逃げたんです」
そんな婦人に、自分は苦い口調でそんなことを言ってしまった。
「あら、それは違うわよ」
けれど。婦人は、自分の言葉に首を振った。
「あなたのお父様はね、見つけたのよ。自分を頼ってくれる存在を。自分がいなければ、生きていけない存在を、ね」
「それは……母ですか?」
自分の知る母は、そんなにか弱い存在ではなかった。
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