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今度は、唇が瞼に触れた。
「付いてくんだろ」
なんの疑いも持たない目が、正面から俺を見た。ほんま、自分勝手の自信家。
「俺が日下に勝てるもんなんて、年くらいしかないんだ。少し先を歩くくらい、許せるだろ」
ふふと笑った顔は、既に俺が見たことのない大人の顔で、また差をつけられてる気がしてしまう。
「……いやや、」
不貞腐れた声に、先輩は少し目を見開く。
俺は追い付きたい。並びたい。なんなら、甘えて縋って頼ってもらえる存在になりたい。
「俺は意地でもアンタに追い付きたい」
「ふはっ、そりゃ困った」
声を立てて笑った先輩の睫毛が少し濡れていた。先を行きたいと思うのが年上男の質なら、追い付きたいと、駆け上がるのが年下男の性だ。
濡れた目で、先輩が俺をみる。
「お前が追いかけてきてくれることを確認した上で」
スッと、痩身が立ち上がる。首に巻かれたままだったマフラーをするり解いて床に落とした。
「卒業式は置いといて、滅茶苦茶セックスしよーぜ」
学ランのフォックが外される。先輩自身の指先で。
あかん。
判ってるはずなのに、欲求に勝てない。
その足を抱き寄せる。
あの夜以来の匂いが鼻から大脳をダイレクトに揺さぶる。
年上男も年下男も好きな相手を目の前にしたら、ただ欲情するだけの、恋男だ。
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