Ⅳ 年上男の独白

3/3
前へ
/19ページ
次へ
 安直と言うか、バカと言うか、最早ドMというか。  受験はキツくなって更に精神的に追い詰められ、当りがキツくなる俺を日下は寛大に受け入れた。荒みまくった俺は更に禁欲まで強いた。  そんなことをしているうちに、自分は本当に卒業したら日下に捨てられるような気がしてきた。寛容に受け入れるのは3月までの辛抱だとか思ってるんじゃないかなんて、疑心暗鬼。  疑り深くなればいないはずの鬼すら見えてくる。  もうダメかなー。終わりかなー。なんて、思っていた夜に、  (「閉じ込めてー……」)  耳を疑うような、切羽詰まった声。  あんなん、言われたら。  イトオシくなっちゃうよね。  余裕ぶった後輩の、切羽詰まった独白(オナニー)。  掴まるわけにはいかなくなってしまう。  「日下ー?」  旋毛こっちに向けたまま、何でかこいつは俺の靴下履かせてくれてる。  年上としての威厳とか、沽券とか。  ホント。  「俺、これから携帯料金ちゃんと払うし、優先順位はちゃんと考えるし、どんなに遅くなってもちゃんと帰るね」  「はあ……」  意味判ってない三白眼。  そういうところも好きなんだけど。  「ほい」  穿いたばかりの制服ズボンからチャリチャリ音ならして鍵を出す。  「約束破ったら、閉じ込めていいぞ」  きゅって唇閉じた無表情のまんま、首から額まで、全部きれいに赤く染まる顔。  「それも、聞いっ……」  「さー、お前の送辞楽しみにしとこー」  すれ違い様、学ランの襟ぐりからアパートのキーを滑り込ませる。  変なダンス躍りながら、日下は俺を追いかけてきた。  部屋の扉が閉じる。  日下は追いかけてくる。  そうやって追いかけてきて。  いつか、俺のとなりに立つ日まで。  ……簡単には、追い付かせないけど。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

203人が本棚に入れています
本棚に追加