203人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんで腹って減るんだろ……」
今日もかわいい俺の先輩。
髪は3日前に風呂に入ったきりな気がするし、肌は薄汚れてる気がするし、目の下には熊が2匹飼われてるけど、かわいいには違いない。
台所から横目で見ながら、スープに火を通す。
猫舌の先輩に丁度いい温度。
「なんで眠くなんだろ、なんでトイレ行きたくなんだろ、なんでゲームの誘惑に負けんだろ」
文句ばっか言いながら、目の前のペペロンチーノにフォークつけて先輩はポロポロ涙を溢す。
―――凄いナーバス
受験生なのは判るし、受験生が追い詰められるのも判るけど。
「じゃあ寝りゃええ……ヒィっ!」
スープの入ったマグ、両手に持った俺の顔面すれすれを、鋭利な何かがよぎった。
それは音を立てて俺の斜め後ろの壁に突き立つ。
フォークだ。
元野球部エースが投げたフォークが壁に突きたってた。
えー、なんなんこれ。
これ目とかに刺さったら死んでるパターンやないの?こわっ、ちょ、ホンにこれなんなん。ガチやん、がっちがちのガチやん。
血の気も気持ちもちんぽもドン引く。ちんぽってかタマがひゅんって中、入っちゃう。
「寝るとか言うなよ!もう明日じゃん、数時間後だよ!受かる気しねぇよ!」
先輩はぼろぼろ涙溢しながら不安定。
俺が作ったパスタ食いながら文句しかいってない。
「でもA判定出てんやろ。あと寝るくらいしかできへんやん」
「簡単に言うなよ!判定なんて当てになんねぇじゃん!他のやつが皆S判定だったらどーすんだよ!俺絶対お……おち……」
自分が言いかけた言葉にまた不安定になってえずいてる。
じゃあ、なんて声かけたらええんや。
呼ばれて飛び出て尻尾振って駆けてくりゃ、腹が減ったの、パスタ食いたいの言われて。作ったら今度はフォーク投げられて。でも、泣いてんのは先輩で。
気持ちは判るなん、嘘でも言えん。
だって俺は二年で、受験生やない。先輩の身にはなれん。気持ちなんて来年にならん限り判らん。
判らんから。
「そんな不安にしかならんのやったら否応なしに寝るしかなかろ」
一人言ちて壁からフォークを抜いた。
俺の分のペペロンチーノが湯気を立てて冷えていくけど、無視した。
最初のコメントを投稿しよう!