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安直と言うか、バカと言うか、最早ドMというか。
受験はキツくなって更に精神的に追い詰められ、当りがキツくなる俺を日下は寛大に受け入れた。荒みまくった俺は更に禁欲まで強いた。
そんなことをしているうちに、自分は本当に卒業したら日下に捨てられるような気がしてきた。寛容に受け入れるのは3月までの辛抱だとか思ってるんじゃないかなんて、疑心暗鬼。
疑り深くなればいないはずの鬼すら見えてくる。
もうダメかなー。終わりかなー。なんて、思っていた夜に、
(「閉じ込めてー……」)
耳を疑うような、切羽詰まった声。
あんなん、言われたら。
イトオシくなっちゃうよね。
余裕ぶった後輩の、切羽詰まった独白。
掴まるわけにはいかなくなってしまう。
「日下ー?」
旋毛こっちに向けたまま、何でかこいつは俺の靴下履かせてくれてる。
年上としての威厳とか、沽券とか。
ホント。
「俺、これから携帯料金ちゃんと払うし、優先順位はちゃんと考えるし、どんなに遅くなってもちゃんと帰るね」
「はあ……」
意味判ってない三白眼。
そういうところも好きなんだけど。
「ほい」
穿いたばかりの制服ズボンからチャリチャリ音ならして鍵を出す。
「約束破ったら、閉じ込めていいぞ」
きゅって唇閉じた無表情のまんま、首から額まで、全部きれいに赤く染まる顔。
「それも、聞いっ……」
「さー、お前の送辞楽しみにしとこー」
すれ違い様、学ランの襟ぐりからアパートのキーを滑り込ませる。
変なダンス躍りながら、日下は俺を追いかけてきた。
部屋の扉が閉じる。
日下は追いかけてくる。
そうやって追いかけてきて。
いつか、俺のとなりに立つ日まで。
……簡単には、追い付かせないけど。
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