Ⅰ 不安定と飛んできたナイフ

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 でも、滾っちゃったものは滾っちゃったもので、どう見たって先輩は起きそうにないし。  淡く開いた唇の感じとか、憔悴して色の悪い感じだとか、全く、無防備な、寝息だとか。  さんざん我慢してきたけど、俺やって健全男子。  キスだけなんて、止まれない。  部活やってたときより白くなった肌とか。さっきのキスでテカった唇とか。だらしなく、緩んだ襟首とか。  触れたい。  でも、触れたら、起こしてしまう。邪魔をしてしまう。邪魔はしたない。  でも、少しだけ。  ここで皆さん恒例の男子のレツジョーとジュンジョーのセメギアイですよ。  いや、完全にレツジョーに軍配ですけどね!  勝てる男子いたらちょっとアドバイス欲しいくらい。  起こさないように、起こさないように、髪を掻き上げて額に唇を寄せる。  「ちょっと俺にも構ってくれてもええんやないですかー……」  レツジョーは暴発寸前。寝てる先輩相手に、なんて気が引ける。気は引けるけども。  唇の形。睫毛の1本1本の反った角度。鼻梁の盛り上がったところ。正しく揺れる、胸。  どうか、起きないでと、祈りながら。  力なく丸まった指の肉厚な掌に触れる。肉刺がもう、柔くなり始めている。
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