Ⅰ 不安定と飛んできたナイフ

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 手、借りるだけやから。  ベッドの横に屈んで、寝姿だけで勃起した性器をスウェットから出す。  もう啜り泣くくらい固くなってて、手を添えなくてもしっかり起立してた。  好きや。  掌に自分の性器を乗せる。触れる手の温さと、先輩の肌。  手を握って、筒を作る。柔い締め付けは全然物足りないのに、先輩の手だってだけで下腹部が甘く、怠くなる。  「すき、や」  左手でキツく先輩の手を握って、筒を狭くする。自分の先走りでにちゃにちゃと滑りがよくなる。  この格好、間抜けやなぁ。  熟睡する先輩の隣で、へこへこ腰振って、自分の事しか考えてなくて。  「すっきやで」  右手で、正しく寝息する体に触れる。筋肉の落ちた体は少し細くなっている。  だんだん、俺の知らん人になっとる。  陽の下にあったあの笑顔も、天真爛漫な物言いも。  いつのまにか神経質な眉間のシワに掻き消されてる。  大学、合格したら戻るんだろか。  むしろ、離れてしまうんだろか。  男同士の恋愛関係なんて男子校でしか、きっと保たない。  俺と先輩の関係やって、きっと先輩が進学したら、……。  終わるんやろか。  こんな風に寝顔を見ることもなくなって、生活サイクルだって変わって、会えなくなって。  それは、いややな。  どんどん、俺の知らない先輩になっていく。  なんて。  「ンっ……」  ケツの穴がぎゅっと閉まる。突き上げて駆け抜ける射精感。  「っ……ふッ……」  腰が震える。無意識に腰が突き上がる。  離れてしまうんかなぁ。  上がった息を整えながら、チェストの上からティッシュをとる。  丁寧に、丁寧にその手をぬぐう。その掌の、柔さ。  それさえも、遠くなってしまうんかな。  それやったら、ホンマいっそ。  「閉じ込めてぇー……」  ちんぽ出しっぱなしで先輩の胸に顔を埋めた。やって来る罪悪感と賢者タイム。  何やってんねん、俺。  みたいな猛反省。  なんで年下やったんかな。  年上までいかんとも、せめてタメやったらこんな風に追いかけてすがり付かなきゃならないようなことなかったのに。  いつも見えるのは背中ばっかや。  好きやのに。  好きやから、この届きそうで届かない距離にもだもだする。  「好きやで」  ほんに。  「離れたないわー……」  好きなんやもん。
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