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「これはあかん。」
「あかんなー」
相変わらず先輩はエセ関西弁で、俺の腕、引っ張ってる。引っ張ってどこつれてかれるんかと思ったら教室とも、体育館とも違う。今は二人きりになりたないのに、ずんずん先輩の足は人気のない寮の方へ進んでく。
いややって。
なんで、こいつほんまに人んこと考えんとガンガン行くん。
そんで、なんでそんなヤツに惚れたん、自分。
行き着いたのは、なんにもない、がらんどうになった先輩の部屋。備え付けのもんしかない。ベッドもシーツがはがされて真っ白なマットレスがむき出しで、本棚は空っぽでシンクはからっからで。
長期の不在を物語る。
「日下、結局俺に言ってないこと、あるでしょ」
「合格おめでとうございます」
「ありがとうございます。ってちゃうわー!」
恭しく下げた頭に恭しく応えておいて、けたけた笑って裏手突っ込み。受験期入る前の先輩そのまま。
俺の好きな先輩そのまま。
「せぇやったら、無いです」
上擦った『ない』が震えて、表札さえ消えた寮の部屋が別れを突きつける。
「ほんま?」
「……ほんま」
喉元突き掛けた言葉を飲み込む。
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