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-意識が戻ってきたのがつい先ほど。まだわけがわからないのも無理はないでしょう。でも安心してください。私たちは決してあなたに害を加えるつもりはありません。だから……眠そうなふりとかはしなくてもいいわ。コミュニケーションを取りましょう。
最後の方の言葉は何か少し親しげで、少し笑いを含んだように聞こえた。向こうからは見られている。そして僕の下手な演技も見切られている。
「あ、あの。ここはどこですか。僕はいったい……」
顔が少し紅潮するのを感じながらも、僕はこういった状況に置かれたら万人がそう問うであろう、ありきたりな質問をしようとした。この期に及んでも僕はまだ自分というものを必要以上に出すのは危険だなどと思っている。
-ここは神奈川の英心会病院。あなたはここで治療を受けていました。
女性の声がややくだけた感じになってきているのがわかるが、それどころじゃなかった。治療……僕はいったい……
-頭蓋骨陥没、そして肋骨三本、に加えて右腕と両足首の骨が折れている状態で運ばれてきたあなたは、意識不明の重体でした。
声はいきなり物騒な言葉で切り出す。
「意識不明の重体」。ニュースではよく耳にする言葉である分、我が身としての実感は薄い。しかし、だんだんと自覚されてきたこの身体のままならなさ。
そしてようやく気付いたが僕は車椅子に座っていた。いや座らされていた、か。
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