本編

5/211
前へ
/211ページ
次へ
 ただ未だ気にかかるのは、こちらの持ちうる情報をすべて出してもいいのかということ。直近の記憶があやふやな今、相手が本当に信頼できる人物かどうかをこちらも見定めなければいけない。 「すいません、まだ頭が朦朧としたような感じで……長い間、寝ていたって言いましたよね。そうなるとどこまで正確はわからないですけど、僕の記憶が確かなら……」  完全に確かでは無いが。ひとまず「正常ではある」ことをかましておいた方がいい、と思った。 「2009年ですよね。今は」  この結論に至るまで、キインと鋭い音が鳴るんじゃないかほどに脳細胞をフルで回転させ、自分の中の記憶を探っていた。  2008年の北京オリンピック。これは記憶にある。北島康介の二冠。フェンシング太田の銀。  そして村上春樹の「1Q84」。これが2009年に発売されたのを僕は知っている。なぜか。  僕が生まれたのが1984年5月29日。「1Q84」が2009年5月29日発売。  25歳の誕生日。それが記憶に残っていた。 -……  「声」が沈黙する。あれっ、間違えた? 確かに2009年までの記憶があるからといって現在が2009年だということにはならないか。それ以降という可能性もある。     
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加