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東京へ
小学校を卒業して数年後、私は東京でお手伝いさんをすることになりました。
私がお世話になったおうちは将校さんのお家で、なんにもわからない私を奥様ともども大事に育ててくださいました。
二十歳を少し過ぎたころ、なんと関東大震災が起こりました。
私がちょうど庭にたらいを出して髪を洗っていた時のこと。
とても立っていられないほどの揺れで、のんびり髪など洗っていられません。
赤い腰巻き一枚身に付けていた私は、急いでそばにあった着物をはおり、自分の身を守ることしかできませんでした。
運よくおうちの人たちはみんな無事でしたが、住んでいた家は壊れてもうそこに住むことはできなくなりました。
「ここ(東京)にいても安心して暮らすことはできないし、徳島に帰りなさい。」
私のその後を心配して郷里に帰ることを勧められ 、帰りの旅費も持たせてくれました。
お世話になったご恩に感謝して、私は故郷の徳島へ帰ることになりました。
さて、駅についてみると私と同じように地震の為非難する人たちで汽車は満員で乗れそうにありませんでした。
私が意気消沈している時、満員の汽車の中から声をかけてくれる人があり見上げると、
「あんた、体が小さいからここへ乗られ―。」
全然知らない人がどこの誰かもわからない私を座席の足元に座らせてくれるというので、善意に感謝して乗せてもらうことにしました。
当然入り口からは乗ることはできず、下から押し上げられ汽車の窓からは引っ張り上げてもらいました。
無事に故郷に帰れたのも、お世話になったご主人や汽車に乗せてくれたおじさんのおかげだとしみじみ思いました。
徳島に帰るとみんな私のことを心配していましたが、顔を見ると安心したようですぐにいつもの生活に戻っていきました。
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