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入ってきたのはこのボロアパートの部屋の家主キンである。ドアが開くと新鮮な空気と外の明るさが入り込み、今は朝なんだと実感させられる。しかし、彼女なドアをバタンと強めに閉めるとまたすぐに先程の薄暗いアンコールが充満した空間に戻るのだ。
「おきた?アポロちゃん」
金髪プリンのロングヘアの彼女は目を細めて私に問いかける。
「ん、まだ眠いけど」
猫なで声で私は答える。アポロとは私のこと。私の淡いピンクに染めたあとそのまま肩まで伸びてしまい、ツートンになってしまった髪のことを言っているのだ。その上、ボザボサ頭でかわいらしさのひとかけらもないだろう。鏡を見てないから想像ではあるが。
「髪の毛直しなよ!せっかくきれいなストレートなのに勿体無い」
こう言って私の髪を茶化す。そしてついでとばかりにこんな言葉まで吐いたのだ。
「出会った頃は綺麗なピンクのショートヘアだったのに」
確かに。確かにそうだ。高校卒業してすぐ私は密かに今でも好きなさくらびっとの色にした。さすがにツインテールはやめたけど。だがしかしこのアポロ頭は紛れもなくあなたのせいなのだ。
「それはキンのせいだよ」
「そうだね」
キンは悪びれない。にやけた顔でベッドに近づく。その余裕そうな顔を見て私はついイラっとして追撃を開始する。
「キンが私を束縛するからだよ」
キンはベッドにボスっと腰を落とす。ベッドに寝転んだ私からはキンのスレンダーな背中しか見えない。沈黙が10秒、そして、キンは急に振り返り顔を一瞬で近づけて私にキスをした。それは一瞬のこと、即座に顔を離してまた私を見てにやける。直前になにかチョコでもたべたのだろうか、唇がほのかに甘い。
「そうだね」
彼女はそう言って私を見下ろす。
そう私は彼女の捕虜なのだ。これがヒーローに憧れた女の子の将来の姿なのである。これじゃあ全くの逆じゃないか。ヒーローに助けてもらう立場じゃないか。情けない今の状況に私はまた思わず笑ってしまう。
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