0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
自分は結構、幸せな人間だったと思う。
……昨日までは。
中学を卒業して、近所のいとこの事務所で仕事をさせてもらって、二十四の時に
知人の紹介という形で、今の主人と知り合い、次の年に結婚した。
わたしの歳の女なら、特に早い訳でもなければ、遅くも無い。
主人は、小さな工場の主任を勤め、性格は真面目。趣味は釣りと競輪くらい
で、映画鑑賞と観劇が趣味のわたしとは、話が合わなかったが、五歳上でおっ
とりとした主人とは、特に喧嘩らしい喧嘩もしなかった。
そんなわたしと主人の間に出来た一人娘の悠子は、結婚三年目に生まれた。
悠子を出産した後、次の子供を望んだが、一度流産してしまった後、どうして
も妊娠出来なかった。
現在なら、色々な治療法などがあるらしいが、わたしの時代には田舎だった
という事もあって、聞いた事がなかった。
長男を熱望していた姑に「女の子なんかいらないのに」とか「お前は役立たず
の嫁だ」等、言われて鬱気味になった事もあった。
そんな時、「悠子一人いればいい」と言ってくれた主人を、わたしは今も忘れ
ない。相変わらず姑とは気が合わないが、優しい主人と悠子がいれば、わたし
は幸せだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!