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徴収令状が家に届いた日、僕の脳裏に真っ先に浮かんだのは、家族でも友だちでもなく君だった。
君に無性に会いたくて、想いを伝えたくて、出兵前夜、君に会いに行った。
いつもと変わらぬ美しい笑顔で、僕に別れを告げる君を抱きしめ、何度も何度も「好きだ」と言った。
そのまま二人、抱き合って過ごした。二度と会えぬと分かっていたのに、君は僕の胸に顔をうずめて、「帰ってきて」と泣いた。
死んで護国の鬼となれ、が当たり前の時代に、君の願いは叶うことはない。
分かっていたのに、僕は「必ず帰ってきます」と約束した。
結局、僕は二度と君のもとに戻ることはなかった。
銃弾の雨の中を走り抜けながら、命が途絶えるその瞬間、僕は君の名前を叫んでいた。
ありがとう。こんなに人を愛させてくれて、ありがとう。忘れないよ。
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