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 それは 、蒸し暑くじっとりした空気が肌に纏わりつく、ある夏の日の午後だった。  古い日本家屋の民家の仏間で私はゴロゴロしていた、この家にはクーラーもなく開け放たれた戸の外には夏の日差しに焼き付けられた庭先が眩しく見えている。が、対象的に室内はどんよりと薄暗く陰鬱とした影を落とす。  いつもならうるさ過ぎるくらいにクマゼミの鳴き声が聞こえているのだが、どうした訳か今日はピタリと聞こえない、暑すぎて蝉どもも鳴く気力を失ったのだろうか。さすがにあの日差しの下に身を晒すのは自殺行為であろう。  私は外の明るさを避け、反対の廊下側の閉ざされた障子の脇に横たわっていた。障子の下側には50センチほどのすりガラスがはめ込まれている。  冷んやりとした畳の感触もいつしか生温かいものへと変わっていた、私はぼんやりと天井を意味もなく見つめていた。木の板を張り合わせた天井には所々 人の手形やら足形らしきものが黒く浮き上がっている、この家は戦前からあると聞く、相当昔に建てられた物だ、あの手形やら足形は当時の大工たちのものが年月を経て浮かび上がってきたのだろうか、それとも違うのか、違うのなら誰のものなのだろう。     
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