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 8月になり忠志はベンチャースカウトの夏キャンプに参加した。夏のキャンプには小学校2年生のカブスカウトから毎年必ず参加している。ベンチャースカウトにもなると5泊6日とかなり長いキャンプ。忠志の家は忠志がキャンプから帰った夕飯は何時も肉料理。キャンプでは大した食事が出来なかっただろうと母が奮発した夕食を作ってくれる。 今夜は鶏の唐揚げ。皮がカリッと揚がっていて、何時になく鶏肉の味が濃く、凄く美味しい。忠志は3つほどをすぐに食べてしまった。 「美味しいでしょ。新鮮だからよ、きっと。篤眞君の家からの御裾わけなの」母も唐揚げを美味しそうに食べた。 「美味しい。鶏肉の味が濃くて、何時もの肉とは全く違うね」父も美味しさに満足げだ。忠志は両親の話を何となく聞きながら、4つめの唐揚げに箸を伸ばしていた。 「今朝、潰したんですってよ。自宅で飼育していた大きな鶏だったとか。ちょっと可哀そうだけれど、肉になってしまえばね。美味しいわね」 「えっ、大きい鶏?篤眞の家の?」忠志は嫌な感じがして箸がとまった。 「そうそう、篤眞君が今朝早くに家に来たのよ。7時ごろだったかな、忠志は起きているかって。今日キャンプから帰ってくると言っておいたけど。何だか急いでいたわ。ケンタ?が如何の…潰されるとか言って…」 「…ケンタ、が…」忠志は箸がとまり暫く動かなくなった。箸を落とすように置くと、よろっと立ち上がった。 「如何したの?忠志…もう食べないの」母が心配そうに声を掛けた。 「…ご馳走さま。篤眞の家に行ってくる…」喉が詰まり消えそうなしわがれ声しか出ない。口の中が唐揚げと鶏の油でヌルヌルして気持ちが悪い。 「違っていてくれ、間違いであってくれ…」忠志は心の中で、そう願いながら篤眞の家の玄関チャイムを鳴らした。
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