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「今朝、潰すことが決まったんだ、ケンタを…」篤眞は忠志が落ち着きを取り戻すのを待って、ぽつりぽつり話し始めた。
忠志は鶏小屋に寄り掛かりしゃがみ込んでいる。口の中は胃酸の酸っぱい味がしていた。
「親父にはそれとなくやんわりと、別の鶏にしたらとは言ったんだけど…」如何してだと篤眞は親父に睨まれた。
「うちの親父怒り出すと手に負えなくて大変なんだ…」申し訳なさそうに篤眞は話し続けた。
「俺は鶏を潰すのが苦手で、何時もなるべく見ないようにしているんだ」でも、ケンタが潰される。今回ばかりはそうは言っていられない。
「忠志、お前ケンタのことを気に入ってたし、報告しないといけないから。見届けようと思って。そうしたら…」下を向いていた篤眞は、そこまで話すと忠志の方に歩みより顔を覗き込んだ。忠志は顔を挙げて篤眞の眼を見返した。その眼には、えも言われぬ恐怖が浮かんでいた。
「…如何したの?」忠志は嫌な感じがして篤眞に話の続きを催促した。篤眞は言い難そうに言葉を探していた。そして思切って話し始めた。
「…木に、木の枝に飛び着いたんだよ。頭のないケンタが。首から血を吹き出しながら。とんでもなく高い枝に。その枝の上に停まったまま息絶えたんだ」その様子を見ていた人達は驚いて騒ぎになった。離れて見ていた篤眞も駆け寄った。そこまで一気に話した篤眞は一息入れ奇妙なことを言い出した。
「凄く変な話なんだけど…」前置きをして。皆は木の上のケンタの身体に気を取られ、梯子を木に掛けてやっと下に降ろしていた。
「実は話し掛けられたんだ、地面に転がっているケンタの頭に…忠志なら分かって貰えると思って…」篤眞は切り落とされたケンタの頭に引き寄せられるように近づいた。眼を見開き近寄る篤眞を睨みつけていた。そして篤眞の頭の中で声がしたと言うのだ。
そこまで聞いていた忠志は俄かに立ち上がり驚きで眼を丸くした。
「…で、何て言われたの?」
地面に転がったケンタの頭。
『オボエテロ、タタッテヤル』
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