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『タダシ…』 農家の慌ただしさに気を取られていた忠志は庭から自分の名前を呼ばれた気がした。ハッとし驚いて庭に向き直った。 『タダシ!』 再び頭の中に声が飛び込んできた。今度はハッキリと。声がした方向へ視線を動かした。落ち葉が吹き溜まった庭の片隅で視線は止まった。さっきまで居なかった鶏がそこにいた。真っ白で大きな鶏だ。 「えっ、もしかして、この鶏が俺の名前を呼んだの?」3メートルほど離れているだろうか、眩しい朝日に眼を細め忠志は真っ直ぐに鶏を見据えた。 鶏は左顔をこちらに向け射るように忠志をじっと見詰めていた。眼の玉がはっきり見て取れる。その左顔と眼、見覚えがあった。次に大きく赤々とした鶏冠が眼に飛び込んできた。この鶏は、もしかしてケンタ?まさか…。 鶏と視線が合ってドキッとした。この鶏はやはりケンタ?いや、そんな筈がない。何故なら、ケンタはとっくに潰され肉になって…。頭の中でケンタであることを強く否定した。ところが身体が勝手に反応した。口の中は鶏肉の味がし…今にも吐きそうだ。忠志の全身に粟立つような鳥肌がたった。鳥肌は半袖Tシャツと擦れ上半身全体でゾワゾワと音を立てている…。
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