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 一寝入りした忠志は篤眞にLINEをした。篤眞の家に行く。久しぶりだ。道を挟んだ目の前なのに中学時代は篤眞の家に一度も行かなかった。そんなことを考えながら家の門をくぐると門の横でスマホを覗き込んで篤眞が待っていた。 5月の中旬、この時期田植えの準備なのか、玄関先の広い庭に色んな農機具が置かれている。そんな庭の片隅に以前は無かった鶏小屋があった。 「へぇー…」興味を持った忠志は金網越しに中を覗き込んだ。10羽程の鶏が飼育されている。暫く覗き込んでいると、その中で一際身体が大きく赤々とした立派な鶏冠を持つ一羽が眼に留まった。身体は真っ白。気になった忠志は、その鶏のことを篤眞に尋ねてみた。 「あの大きくて真っ白な鶏冠のでっかい鶏、大きくてカッコいいな。あるんでしょ名前、何て言うの?」一緒に覗き込んでいた篤眞は少し顔が険しくなった。 「ああ、鶏に名前は付けないんだ。だって潰して肉にするから…さ」 篤眞は無表情のままで語尾が消えるように小さくなり、それ以上何も言わない。 「潰す?肉にする?…」何を言っているのか忠志にはピンとこなかった。眼は気になった白い鶏を追い続けている。肉にするということは…。 「…食用、食べるのか」そこは繋がり忠志は理解した。 「そう、食用なんだ。この小屋の中の鶏全部がさ」篤眞は独り言のように言い足した。しかし、名前を付けないことと、どのような繋がりがあるのか忠志に説明をしなかった。勿論、忠志も考えが及ばない。
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