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 忠志は篤眞の家に遊びに行くと必ず鶏小屋を覗きこみ、その真っ白で鶏冠の立派な鶏を眺めるようになった。 一点の曇りのない真っ白な羽で覆われた身体は、周りの鶏より一回り大きく背も高い。大きな胸を張り、他の鶏達を引き連れ歩く姿は堂々とした鶏王とでも言う風格。何といっても忠志が一番気に入っているのが、やたら大きい鶏冠。嘴を上から覆い隠してしまいそうな大きさだ。尖がりが五つあり鶏王の真っ赤な冠のようだ。 忠志は、その姿形に魅了され、どんなに見ていても飽きることはなかった。 「ケンタ…」何時の間にか名前で呼び始めた。覗き込む度にケンタと声を掛ける。暫くすると、その鶏もケンタが自分の名前であることに気付いたのか呼ぶと忠志の処にやって来るようになった。忠志は満足げに眼を細めニヤニヤしていた。近くで見ると迫力は更に増し、ケンタ特有の強い鶏臭が匂ってきた。 そんな様子を傍で見ていた篤眞は当惑し、忠志を鶏小屋から遠ざけようとした。そのことに忠志も気付き、如何いうつもりなのだろうと思っていた。 鶏小屋の鶏は時々数や鶏が変わった。 「肉にされたのか…」忠志は何処か他人ごと。特に気にも掛けなかった。ところがふと思い出した。 「…食用、…小屋の鶏全部」篤眞の言っていたことを。ケンタもこの鶏小屋にいる以上、何れは潰さら肉にされる。当たり前のことに今更気付くと焦燥感に駆られた。気に入った鶏にケンタと名前を付け可愛がってしまったからだ。篤眞が鶏に名前を付けない理由が、この時分かったような気がした。忠志を鶏小屋から遠ざけようしたことも。何時かは肉になる鶏に名前を付け可愛がることで情が移らないようにする為だったのでは、と。
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