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 何時しか忠志は鶏小屋を覗き込むと篤眞の目を盗んでケンタに話し掛けるようになっていた。 忠志が鶏小屋に近づくと声を掛けなくてもケンタの方から歩み寄ってきた。 「ケンタ、逃がしてやるからな、必ず…」最後にケンタに、そう言っていた。忠志のケンタへの約束は当てがあるモノではなかった。でも、そう言わずには居られない程にケンタのことが気に入り、入れ込んでいた。 「潰されて肉になどされて堪るか」そう思うようになっていた。恰もケンタは自分の持ち物のように。 そんな状況を篤眞は分かっていた。離れた所から見ていた篤眞はため息をついていた。 「このままで良いのか?」一度、意見をして注意した方が良いのでは。でも、今の忠志に聞き入れて貰えるだろうか。篤眞も如何したら良いのか対応に苦慮していた。ここまで来たら成るようにしかならない、と投げやりな気持ちにさえなっていた。 忠志は四六時中ケンタを鶏小屋から逃がしてやる方法を考えていた。授業中もふと気づくとケンタと逃がしてやる方法で頭が一杯になっていた。そして夢まで見るようになった。 こんな夢だ。忠志の自宅のベランダの屋根が台風で壊れ空高く舞い上がる。そしてケンタのいる鶏小屋にぶつかり壊すのだ。中の鶏達は皆逃げ出す。勿論、ケンタも。そして逃がしてくれたお礼を言いに忠志に会いに来る。全く実現性のない、幼稚なハッピーエンドのおとぎ話。
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